15.遮熱性舗装の高性能化に関する研究

  1. (株)NIPPOコーポレーション 技術研究所 ◯吉中 保
  2. 独立行政法人土木研究所 水工研究グループ 木内 豪
  3. 長島特殊塗料株式会社 機能塗料事業部 深江典之

1. はじめに

都市域のヒートアイランド現象が社会的な問題となる中で、塗装など人工地覆の高温化がその原因の一つとされており、早急な対策が求められている。その様な状況から開発した遮熱性舗装1)は、路面に遮熱コート材を塗布して日中の路面温度の低減を図るものであり、実用的で速効性のあるヒートアイランド対策2)として期待できる新しい舗装技術である。
筆者らは、より適用効果の高い対策技術として確立させていくことを目的とした、遮熱性舗装の高性能化に関する共同研究を実施している。ここでは、車道への適用を考慮した黒色系の遮熱性舗装について、新規開発した遮熱コート材の日射反射性能および温度低減性能に関する検討結果を報告する。

2. 遮熱性舗装の概要と高性能化

遮熱性舗装は、路面に遮熱コート材を塗布して日射反射率を高めることによって、路面温度の上昇抑制を図ることができるものである。使用する黒色系の遮熱コート材は、日射のうち可視域の反射率を低く抑えたまま日射エネルギー量の約50%を占める近赤外線のみを高反射して蓄熱を防ぐので、黒色の色調を保ちつつも温度低減化を図ることが可能である。

3. 実験結果と考察

本研究では、区画線の視認性確保を考慮して、車道用として望ましい明度をL40((社)日本塗料工業会塗料用標準色見本帳 N-40相当)程度以下と定め、現在実用化されている遮熱コート材(従来品、(株)NIPPOコーポレーション・長島特殊塗料(株)製)を性能基準として、反射特性の改善と更なる温度低減化を目標とした。具体的には、塗膜構造の検討や新規材料の導入検討等である。

(1) 反射特性の改善

図-1に、従来品と本開発品(例としてN-40タイプ105)の反射特性を示す。L値はいずれも約40であり、同様の黒色系の色調を持つ。可視域を低反射としつつも近赤外域を高反射する遮熱コート材の反射特性がみられるなかで、N-40タイプ105については近赤外域の反射レベルが約90%にまで達しており、2002年8月時点での従来品よりも約20%も向上している。
一方、図-2のN-40タイプ105とN-40タイプ104は一部の材料を使い分けてみた結果であり、近赤外域の反射性能が改善していることから、適切な材料選定や配合設計を実施していくことで遮熱コート材としての反射レベルを向上できることがわかる。

本開発品(N-40タイプ105)の反射性能

図-1 本開発品(N-40タイプ105)の反射性能

(2) 日射反射率の向上

明度と日射反射率の関係について、従来品N-40とN-60(いずれも2003年2月以降)を基準に、本開発品の一部をプロットした(図-3)。これより、本開発品の日射反射率が全体的に従来品よりも向上していることがわかり、特に目標明度をL40以下と規定した場合にはN-40タイプ105の日射反射率が高く、温度低減化に対する有効性が期待できる。なお、ここで示す日射反射率とはJIS A 5759に定義されるものである。

材料選定と反射特性の改善

図-2 材料選定と反射特性の改善

明度と日射反射率の関係

図-3 明度と日射反射率の関係

(3) 屋外での舗装表面温度

本開発品のうち、選定した32種類について沖縄市内に供試体を設置し、屋外において舗装表面温度を測定した。供試体は密粒度アスコン13mmTOPに遮熱コート材をコーティングしたホイールトラッキング試験用のものであり、熱電対は先端部を約5cm露出させて遮熱コート材とアスコンとの界面に接着し、それぞれの供試体の周囲には断熱処理を行った。

図-4に示す遮熱コートを塗布しない標準に対する最大温度差は、N-40タイプ104が14.5℃、N-40タイプ105が15.1℃であり、黒色系でありながら高い温度低減効果が得られていると共に、図-1ならびに図-2に示したN-40タイプ105の反射特性の改善が舗装表面温度の更なる低減化につながっている。
一方、明度と温度低減量の関係を示せば図-5のとおりであり、L40以下で日射反射率の高いN-40タイプ105が特に温度低減量が大きく、従来品を越える温度低減性能が得られていることがわかる。

標準舗装に対する温度低減量

図-4 標準舗装に対する温度低減量

 

本開発品の温度低減性能

図-5 本開発品の温度低減性能

4. おわりに

遮熱性舗装は、重交通道路を含む広範囲な適用性を有していると共に、既設舗装も含めて遮熱コート材を路面に塗布するのみで安定した温度低減効果が得られるという、早急な対応と速効性が求められるヒートアイランド対策として有効な方法と考えられる。ここで示したように、技術的発展性が残されていることの他、低騒音舗装と組み合わせた場合にタイヤ路面騒音の低減効果がみられること3)、さらに路面温度の低減化に伴うわだち掘れの抑制に効果が認められる4)など、遮熱性舗装には様々な社会的要求に対する今後の進展が期待できるものである。

  1. [参考文献]
  2. 1)吉中保、根本信行:路面温度のヒート抑制を目的とした機能性舗装に関する一検討、土木学会舗装工学論文集 第6巻, pp.29〜38, 2001.12
  3. 2)独立行政法人土木研究所水工研究グループ:ヒートアイランド現象軽減のための各種対策の提案とその効果、平成14年度土木研究所講演会講演集, pp.65〜78, 2003.1
  4. 3)吉中、木下、木内ほか:都市の熱環境改善と沿道環境向上を目指した遮熱性舗装の研究開発、(社)日本道路建設業協会第13回懸賞論文(投稿中), 2003
  5. 4)新田弘之、吉田武、城戸浩:路面温度低減型舗装に関する研究、アスファルト合材No.66, pp.7〜11, 2003.4
(第25回日本道路会議論文・2004年)
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