8.緑化が建物熱負荷低減に及ぼす影響に関する研究

Study on Influence Thermal Load by Roof Planting

その1 各種緑化部材による断熱効果

Part 1. Effect of Insulation by Various Types of Planting Materials

  • 正会員 ◯ 寺野 真明*、TERANO Masaaki
  • 同 仲野 章生*、NAKANO Akio
  • 非会員 米田 さつき*、YONEDA Satsuki
  • 非会員 前田 龍一*、MAEDA Ryuichi
  • 非会員 入江 憲一**、IRIE Kenichi
  • 非会員 添田 実**、SOEDA Minoru

キーワード:屋上緑化、植物材料、熱負荷、熱流、経済性、遠隔計測

1. はじめに

都市温暖化、都市型洪水の抑制など顕在化する都市環境問題に対する方策の一つとして屋上緑化への期待は大きい。しかしながら、その効果に関する定量的かつ経済的な評価はまだ十分とはいえない状況にある。本報告では特に建物熱負荷低減効果について、インターネットを利用した遠隔計測システムを開発、約1年間に渡るデータ収集を行い、検討を試みた結果を報告する。

2. 実験概要

実験は東京都内Kビル(地上36階地下3階、鉄骨造)2階東面テラス部にて実施した。同部はビルのエントランス部分にあたる。屋上部に相当するテラス部は、表面は磁器質タイル仕上げ(t=50mm)、躯体部は軽量コンクリート、防水層モルタルおよびコンクリート(t=360mm)からなる。ここに4種の実験区画(3.8m×3.8m)を設け、それぞれ芝、セダムなどの植栽、および日射成分中の長波長域を反射する特性を有する遮熱塗料を塗布した合板(t=12mm)を設置した。また比較参照のため表面に何も施さない区画(非植栽部)も設けた。実験設備の外観を図1に、図2に計測系の概略を示す。

実験設備外観

図-1 実験設備外観

 

実験設備概略と計測項目・箇所

図-2 実験設備概略と計測項目・箇所

各区画中央部において躯体表面および階下天井裏にあたる躯体裏面の表面温度と熱流を計測した(図2)。計測にはT型熱電対および薄型熱流センサを用いた。以上に外気温度、天井裏空気温度を加え、平成14年8月から平成15年7月までの、約1年間にわたり計測を実施した。

各センサから出力は10分間隔で計測し、データベースに蓄積した。インターネットを利用した計測システムにより、遠隔よりデータ取得、解析を可能とした。

熱流は外部から流入する方向を正に、流出側を負にとり、特に躯体裏面から天井裏空気に伝達される各部熱流q2nについては以下式に基づいて算出した。

ここで、t1は外気温度(℃)、t2,t3はそれぞれ躯体表面および裏面温度(℃)、t4は天井裏空気温度、q1,q2はそれぞれ躯体表面から流入および躯体表面から室内に流入する熱流(W/㎡)、hは総合熱伝達係数(W/㎡K)を示す。添字nは角区画特徴を示し、特にrefは非植栽部に関する値であることを示す添字である。

3. 実験結果

(1) 各部年間温度変動

図3に夏期、冬期の代表的な各部躯体表面温度の日内変動を示す。夏期は非植栽部で50℃近くまで温度が上昇するが、 植栽部直下は25℃付近で常時安定している。遮熱塗料も植栽より変動は大きいが、温度上昇は35℃程度までに抑える効果が認められた。冬期は植栽部の温度が、5℃から20℃まで大きく変化する非植栽部に対し高温側で安定するとの結果が得られた。この際、遮熱塗料は非植栽部の半分程度の変動であった。

躯体表面温度

図-3 躯体表面温度(上:8/30〜31、下1/20〜21)

図-4 は躯体裏面温度の日中の変動を示した図である。夏期、特に植栽部が非植栽部に対して低温側に維持され、断熱の効果が見られる。中間期ではこうした差は小さい。一方、冬期は植栽部の方が非植栽部より高温となり、暖房負荷の低減が期待できる。

躯体表面温度

図-4 躯体裏面温度(上:8/30〜31、下1/20〜21)

(2) 植栽および遮熱塗料による断熱効果

図5および6に各部温度と熱流をそれぞれ日中、夜間の2時間について平均化した結果を図示した。

結果として芝などの植栽による断熱効果が年間を通じて大きく、空調負荷低減が期待できることがわかる。遮熱塗料については夏期においては日射を遮る効果が期待できるが、冬期には日射熱の授受が阻害される。

さらに非植栽部においては躯体蓄熱によるものと思われる夜間室内への放熱が示された。この放熱は、就眠時の不快性や翌朝の空調立ち上げ時負荷の増大をもたらすと予想される。こうした影響の抑制についても緑化の経済性評価にあたっては考慮する必要があると思われる。

ここで、躯体裏面での熱流は式(1)、(2)からの推定によるが、天井裏空気温度の影響が極めて大きい。にもかかわらず計測結果(図5)は各部躯体裏面温度の高低と整合性に欠け、推定には大きな誤差が伴うことがわかった。現在数値解析による補正を検討中であるが、原因としてダクトや吸込口位置および階下食堂街厨房からの発熱の影響が考えられる。

天井裏空気温度

図-5 天井裏空気温度(上:8/30〜31、下1/20〜21)

 

図-6 各部の熱的状態 (冬期:8/30〜31)

 

図-7 各部の熱的状態 (冬期:1/22〜23)

 

5. まとめ

本実験では既存ビルの屋上相当部分に緑化設備を設置、インターネットを利用した遠隔計測システムを開発し、長期間にわたり、熱的影響データを収集、蓄積した。
現在も検討中であるが、現時点での結果として、芝、セダムなどの植栽が年間を通じて高い断熱効果を有し、長期的視点で評価を行う必要性が確認された。またこうした効果が土壌に起因する可能性も高いが、植物自身の効果についても別途検討する必要がある。遮熱塗料については特に夏期の日射を反射し、熱侵入を低減させる効果が確認された。植栽との比較についてはメンテナンス性などの視点も必要であろう。さらに総合的な評価にあたっては躯体蓄熱による影響も考慮する必要がある。今回これら効果の定量化とその経済的評価のために、居室内への熱侵入の推定を試みたが、精度などの問題点が明らかとなった。今後数値解析を併用し、さらに検討を深めて行く予定である。


  1. [参考文献]
  2. 1) 仙川、大橋:屋上緑化による、環境改善効果に関する研究第1報、空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集、pp1413-1416,2003
  3. 2) 角田、垣鍔:屋上緑化の熱的性能に関する研究(その1〜2)、日本建築学会大会学術講演梗概集、2002

*松下電工株式会社 システム技術研究所 Matsushita Electric Works, Ltd.
**三井不動産株式会社 Mitsui Fudosan Co.,Ltd.

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カテゴリー: 各種データ・論文

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