3.高反射率塗料による日射遮蔽効果の検討

Study of Reduction of Solar Heat Gain by High Reflective Paint

ー自動販売機および建物に適用した場合の省エネルギー効果ー

Application to Vending Machines and Buildings

正会員 ◯ 大島 章義(日設、当時武蔵工大・学生)
同 近藤 靖史(武蔵工業大学)
同 速水 圭介(三井ホーム、当時武蔵工大・学生)

1 序

高反射率塗料(図1及び表1参照)を自動販売機の外側表面や建物の外皮に塗布した場合の省エネルギー効果について、実験や熱負荷計算を用いて検討1)を行う。

高反射率塗料の概念

図1 高反射率塗料の概念

高反射率塗料は、弾性アクリルエマルジョンに超微粒子なセラミッス中空バブルが配合された塗料で、塗膜はセラミックス中空バブルが密に充填されているため日射反射率が高い。

高反射率塗料の遮蔽性能

表1 高反射率塗料の遮蔽性能(自動販売機の検討)

 

実験ケース

表2 実験ケース(自動販売機の検討)

2 自動販売機に適用した場合の検討

建築の省エネルギーを考える視点として大きく2つに分けられる。1つは日射熱や外気の影響を建物内部に及ばないようにする工夫(建築的工夫)と、もう1つは建築に付帯する設備を効率の良いものにする工夫(設備的工夫)である。自動販売機を建築に例えると、「エコベンダー」2)(冷却装置の技術的改良)は後者の設備的工夫に対応し、今回検討する「高反射率塗料による日射遮蔽」は前者の建築的工夫に対応するものとも考えることができる。

2.1 実験概要

東京都内某ビルの屋上に図2に示すように自動販売機の代替として冷蔵庫を2台設置した。種々の自動販売機の設置状況・方位について図2に示すように冷蔵庫のドア面の方向と冷蔵庫に接する壁の相対的位置を変えている。測定項目及び方法を表4に、測定点を図3に示す。

自動販売機の検討実験の状況

図2 自動販売機の検討実験の状況

 

温度の測定等

図3 温度の測定点等

測定項目及び方法

表4 測定項目及び方法(自動販売機の検討)

2.2 外側表面温度

表3に外界条件を、冷蔵庫上部の外側表面温度の実験結果から一般の塗料の場合と高反射率塗料の場合の差を図4に示す。日射受熱量の多いケース1(ドア面南向き)では、日中10℃以上の差が出ることが分かり、逆に日射量の少ないケース4(ドア面北向き)ではほとんど差がない。

外界条件

表3 外界条件(自動販売機の検討)

2.3 日積算電力

表5に冷蔵庫内温度を、図5に日積算電力の実験結果を示す。ケース1は1日に約5%の電力を削減できるが、ケース4では約2%の削減にとどまる。しかし、冷蔵庫内の温度が表5に示すように高反射率塗料と一般の塗料で差があるため同等な条件での比較であるとは必ずしもいえない。注1)

冷蔵庫内内温度

表5 冷蔵庫内内温度[℃](12時)

 

日積算電力の実験結果、自動販売機の検討

図5 日積算電力の実験結果(自動販売機の検討)

2.4 自動販売機の冷房負荷計算概要

表1に高反射率塗料の日射遮蔽性能を示す。冷房負荷の計算をHASPにより行った 3), 4) 。計算では冷蔵庫や実験時の外界条件などを再現した。

2.5 日積算冷房顕熱負荷

図6に日積算冷房顕熱負荷の計算結果を示す。冷房顕熱負荷は一日に約10%の削減ができることが分かった。また、消費電力ピーク時(12-15時)の冷房負荷は平均で約12%の削減となる。

省エネルギー効果(冷房負荷計算による推定)

図6 日積算冷房顕熱負荷の計算結果

2.6 実験と冷房負荷計算の比較

図5と図6を比較すると、同様な傾向が見られる。実験が平均で約4%電力の削減であるのに対して、冷房負荷の計算値は平均で約10%の削減となっている。これは、実験では冷蔵庫内温度を一定にできず、ケースごとに差が生じたのに対し、冷房負荷計算では冷蔵庫内温度を一定にし、各ケースとも同じ条件で検討できたことによると考えられる。

2.7 省エネルギー効果の推定 注2)

冷房負荷計算の結果から、夏期については1日に約10%電力を削減できると期待される。一年を通しみた場合年間の冷房負荷計算により約6%の削減が可能と思われる。これらを全国レベルで評価、試算した結果を表6に示す。

省エネルギー効果

表6 省エネルギー効果

3 建物に適用した場合の検討 4)

各種の建物をモデル化し、表7に示す3ケースで熱負荷計算を行い、比較検討する。室内条件、内部発熱、換気、空調の運転時間などの諸条件は、一般的と考えられる状況を想定した。

3.1 大空間

大空間の例として、工場(図7、表8、図8)と冷蔵倉庫(図9、表9、図10)をモデル化し、検討した。工場では、ケースa(塗料:なし)と比較し、ケースb(塗料:屋根)で41[MJ/㎡年]、ケースc(塗料:屋根・外壁)では51[MJ/㎡年]、負荷が小さくなる。ケースbとケースcの差は外壁のみに塗布した場合の効果であるが、これは10[MJ/㎡年]と小さく、効果は顕著でない。また、冷蔵倉庫では、工場の場合と同様な傾向が見られるが、外皮の熱貫流率が小さいため、ケースaとケースcの差は22[MJ/㎡年]と、比較的小さい。

工場平面図

図7 工場平面図

計算ケース

表8 工場の計算条件

工場の年間冷房負荷

図8 工場の年間冷房負荷

図9 冷蔵倉庫平面図

冷蔵庫の計算条件

表9 冷蔵倉庫の計算条件

オフィスビルの計算条件

図10 冷蔵倉庫の年間冷房負荷

3.2 オフィスビル(図11、表10、図12)

オフィスビルの最上階を図11のようにゾーニングし、計算を行った。ケースaとケースbの負荷の差は、屋根に吸収される日射量の差であり、ケースbでは各ゾーンとも、一様に12[MJ/㎡年]小さくなる。また、ケースbとケースcでは、ほとんど差が見られず、外壁に塗布した場合の効果がほとんどない。

オフィルビルの平面図

図11 オフィルビルの平面図

オフィスビルの計算条件

表10 オフィスビルの計算条件

 

オフィスの年間冷房負荷

図12 オフィスの年間冷房負荷

3.3 住宅 6)

地域について東京、那覇の場合の比較を行い、構造についてRC造と木造の場合の比較を行う。平面図、条件及び結果をそれぞれ図13、表11、図14〜17に示す。まず、地域による比較では、図14の東京、図15の那覇ともに高反射率塗料により冷房負荷が小さくなるが、東京では暖房負荷が逆に大きくなるため、年間負荷では変化が少ない。図16に示す那覇の2階の3室では、外壁に塗布した場合においても効果の向上が顕著で、ケースaとケースcを比較すると、負荷が約40%小さくなることが確認できる。これは、外壁の熱貫流率が大きい場合、吸収される日射量の差、すなわち相当外気温度の差異が、室内負荷に大きく影響するためである。

図17に示す終日空調した場合のRC造と木造では、躯体の蓄熱による差異が見られる。夕方18時以降では、塗料の効果は木造で小さく、RC造では大きい。しかし、昼間冷房を使用する場合は、木造の場合においても大きな効果が見られる。

住宅平面図

図13 住宅平面図

 

住宅の計算条件

表11 住宅の計算条件

 

住宅・東京・RC造の年間冷房負荷

図14 住宅・東京・RC造の年間冷房負荷

 

住宅・那覇・RC造の各室の冷房負荷

図15 住宅・那覇・RC造の年間冷房負荷

 

住宅・那覇・RC造の各室の年間冷房負荷

図16 住宅・那覇・RC造の各室の年間冷房負荷

 

RC造と木造の寝室の冷房負荷

図17 RC造と木造の寝室の冷房負荷

4 まとめ

以下のことが確認できた。

① 実験及び冷房負荷計算の結果、高反射率塗料を自動販売機(冷蔵庫)の外側に塗布することで外側表面温度の上昇を抑え、これにより自動販売機内(冷蔵庫内)の温度上昇を抑え消費電力の削減につながる。
② 直達日射を受けやすい自動販売機(冷蔵庫)には特に効果が大きい。
③ 高反射率塗料を建物外皮に塗布することにより、冷房負荷が小さくなり、暖房負荷は大きくなる。したがって、冷房負荷の大きい暑熱地域での効果が大きい。
④ 外皮の熱貫流率が大きい建物に塗布した場合効果が大きい。


注1)冷蔵庫や自動販売機は通常年中連続運転であるが、今回の実験では夜間は運転を停止していたため、日により庫内温度に変動が生じた。さらに2台の庫内温度を比較しても差が生じている。

注2)冷蔵庫と自動販売機では構造的に差異があり、制御方法も異なる。また、自動販売機の設置状況・代数などの情報も入手できなかった。したがって、詳細な省エネルギー効果の検討は現状ではできていない。

<謝辞>
本研究を行うにあたり(株)ハウステック・深江典之氏、長島特殊塗料(株)・長島正季氏をはじめ関係者各位には多大なる御協力を頂いた。ここに記して感謝の意を表す。

  • <参考文献>
    1) 大森・近藤・長澤:高反射率塗料の遮熱性能に関する研究(その1,2)建築学会大会梗概集(1997)
  • 2) 読売新聞 1996年10月25日:発想無限大(エコベンダー)
  • 3) 宇田川:空気調和計算法 オーム社(1986)
  • 4) 松尾:HASP/ACLD/8501解説 日本建築設備士協会(1985)
  • 5) 朝日新聞 1997年6月22日:温暖化防止会議に向けて
  • 6) 住宅の消費エネルギー計算法小委員会報告書 空気調和・衛生工学会(1996)
    • 3.高反射率塗料による日射遮蔽効果の検討-自動販売機および建物に適用した場合の省エネルギー効果  >>ダウンロード
    武蔵工業大学・近藤研究室 (空気調和・衛生工学会学術講演会講演論文集・1998年)
    カテゴリー: 各種データ・論文

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    武蔵工業大学・近藤研究室 (日本建築学会大会学術講演梗概集・1997年)
    2.高反射率塗料の遮熱性能に関する研究
    外壁の日射反射率と自然室温・冷房負荷に関する検討>>詳細ページ
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    3.高反射率塗料による日射遮蔽効果の検討
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