4.高反射率塗料による省エネルギー効果および都市気温への影響

Reduction of Solar Heat Gain of Building and Urban Area by High Reflectivity Paint

  • 学生会員 ◯ 入交 麻衣子(武蔵工業大学大学院)
  • 正会員 近藤 靖史(武蔵工業大学)

1 はじめに

室内を快適に保つために、空気調和機などの機械設備が一般的に用いられ、その結果エネルギーの多消費、都市のヒートアイランド現象などの問題が顕在化している。このような問題を回避するためには、建物の熱的性能を向上させることにより冷暖房設備への依存を少なくすることが重要である。その一つの方法として日射反射率の高い塗料(以後、高反射率塗料(註1)と記す。図1を参照)を、建物外皮に塗布し、建物外皮が受ける日射熱量を軽減する方法が考えられる。(文献1〜文献3)
本報では、熱負荷計算により、高反射率塗料の効果を地域ごとに、また建物種別ごとに比較する。さらに建物外皮の日射反射率が上がった場合、都市のアルベド(日射反射率)も上昇すると考えられ、この場合どの程度ヒートアイランド現象が暖和するかについて検討を行う。

高反射率塗料の概念図

図1 高反射率塗料の概念図

注)高反射率塗料:弾性アクリルエマルジョンに超微細な中空セラミックが配合された塗料であり日射反射率が0.85と高く、遮蔽性能に優れた塗料。また長波放射率は0.94、熱伝導率は0.25[W/m・K]。また塗料の色は、赤や青といった色も開発されている。黒色の場合でも日射反射率が36%ある塗料もある。これは可視光線域では反射せずに黒色と認識させ、近赤外線域を反射させる技術による。


2 熱負荷計算概要文献2)

大空間モデルとして倉庫・工場・冷蔵倉庫を、そしてオフィスビルと住宅を想定した。表1に示す3ケースを各建物モデルで想定して10都市(旭川・札幌・仙台・東京・松本・名古屋・大阪・広島・福岡・那覇)における熱負荷計算を行い、比較検討する。熱負荷計算はHASP/ACLD8501(文献4)を使用した。室内条件・内部発熱・換気・空調の運転時間などの諸条件は、一般的と思われる状況を想定した。

高反射率塗料の反射率測定結果

図2 高反射率塗料の反射率測定結果

注)資料提供:長島特殊塗料(株)、(株)ハウステック

計算ケース

表1 計算ケース

3 各建物モデルの熱負荷計算結果

3.1 大空間モデル

(a)倉庫(図3、表2参照) 図4より倉庫の場合、那覇などの日射量の多い地域において、高反射率塗料は非常に有効であることが分かる。しかし北日本の地域においては屋根に塗布することにより暖房負荷が大きくなり、壁に塗布することでさらに負荷が増える傾向がある。東京においては、高反射率塗料を塗布することにより、年間の熱負荷が減少するが、壁にまで塗布すると暖房負荷が増えるので、この場合屋根面だけに塗布することが望ましいと考えられる。

倉庫平面図

図3 倉庫平面図

倉庫の計算条件

表2 倉庫の計算条件

倉庫の年間熱負荷

図4 倉庫の年間熱負荷

(b)冷蔵倉庫(図5、表3参照) 図6より、多くの断熱材が施され熱貫流率の小さい外皮を持つ冷蔵倉庫においては、地域による相違は比較的大きくない。しかし冷蔵倉庫のような建物は年間で冷房熱負荷が多く、北日本においても塗料の有効性がわずかながら確認できる。また塗料を屋根に塗布した場合と、外壁にまで塗布した場合の効果の差はあまりない。

冷蔵庫平面図

図5 冷蔵倉庫平面図

冷蔵倉庫の計算条件

表3 冷蔵倉庫の計算条件

例蔵倉庫の年間冷房負荷

図6 冷蔵倉庫の年間冷房負荷

(c)工場(図7、表4参照) 図9より、高反射率塗料の性能は年間暑熱気候の那覇においては、非常に効果があることが確認できた。今回想定した工場の条件においては高反射率塗料を塗布することにより暖房負荷がやや増えるが、冷房負荷の割合が大きいので、有効であった。また冷蔵倉庫同様、塗料を屋根に塗布した場合と外壁にまで塗布した場合の差は大きくない。

工場平面図

図7 工場平面図

 

工場の計算条件

表4 工場の計算条件

 

工場の年間熱負荷

図9 工場の年間熱負荷

3.2 オフィス (註2) (図8、表5参照)

図10より、負荷の分布は大きく北海道2都市と松本、関東・関西地区、そして那覇の3つに分類することができる。北海道の2都市、また内陸地の松本においては、負荷が大変少ないことが分かる。那覇は日射の影響を強く受け、他の地域に比べて非常に負荷が大きくなっている。旭川以外では、屋根および外壁に塗布することで、わずかであるが負荷が減少する。

オフィス平面図

図8 オフィス平面図

 

オフィスの計算条件

表5 オフィスの計算条件

オフィス最上階の年間冷房負荷

図10 オフィス最上階の年間冷房負荷

3.3 住宅 (図11、表6参照)

図12より住宅の場合も、冷房負荷が大きく暖房負荷の小さな那覇において塗料の有効性を確認することができる。その他の地域においては、冷房負荷は減るものの暖房負荷が増えるために、必ずしも有効であるとは限らない。また壁にまで塗布した場合暖房負荷がさらに増える傾向があることが分かった。

住宅の平面図

図11 住宅の平面図

 

住宅の計算条件

表6 住宅の計算条件

住宅(2階)の年間熱負荷

図12 住宅(2階)の年間熱負荷

4 ヒートアイランド現象の検討

近年都市廃熱の増加や、土地開発にともなう緑地の減少などに起因するヒートアイランド現象の問題が都市部において顕在化している。これに対し、高反射率塗料を都市の建物の外皮などに塗布した場合、都市部の日射吸収熱量が軽減し、ヒートアイランド現象が暖和される可能性がある (文献3)。ここでは都市気温の推定を一時元熱収支モデル (文献5〜7) により行い、都市の日射反射率(アルベド)の影響を検討する。

4.1 計算概要

表7に一次元熱収支モデル (文献5) の概要を示す。都市気候モデルにおいて現存の都市を緑地率10%と仮定し、高反射率塗料を塗布した場合については都市地盤の熱反射率(アルベド、ρr)を変化させる(註3)ことにより検討する(文献6)。都市気温の計算条件を表8に、解析ケースを表9に示す。

一次元熱収支モデルによる都市気温の推定

表7 一次元熱収支モデルによる都市気温の推定 文献7)

4.2 計算結果

図13より緑地率10%の場合において、建物外皮などに高反射率塗料を塗布した場合(ケースc)、日射量が多い昼間に都市気温の上昇を抑えることができ、高反射率塗料の効果が確認できる。高反射率塗料を塗布し、ρrが0.17から0.3に上昇した場合、約0.7℃の都市気温低下が試算されたが、これは緑地率を約20%にまで増加させたことと同様な効果である。

都市気温計算条件

表8 都市気温計算条件

 

都市気温解析ケース

表9 都市気温解析ケース

 

都市気温日変動の推定結果

図13 都市気温日変動の推定結果

5 まとめ

  1. ①建物の構成材料、および用途や使われ方などによって高反射率塗料の有効性は異なるが、冷房負荷の大きな地域および建物においては非常に有効であることが確認できた。しかし暖房負荷の大きな地域・建物においては、塗料を塗布することにより逆に暖房負荷が増えるため、有効であるとは限らない。
  2. ②都市のアルベドを上昇させることで、日中の都市気温は低下し、ヒートアイランド現象を抑えることができる。

[謝辞]
本研究を進めるにあたり、(株)日設・大島章義氏(元武蔵工大学生)に多大なるご助言・ご協力を頂いた。ここに記して謝意を表す。

(註1)高反射率塗料の塗装面の反射特性は拡散反射的であり、「光公害」など周囲への悪影響もないと考えられる。

(註2)オフィスにおける近年のOA化を考慮して一年を通して冷房空調しているとして計算した。

(註3)文献6) では大阪市域のアルベドを以下のように推定している。緑被率は約5.0%、道路率は約17.4%、建物率は約77.6%であるとし、また緑地のアルベドを0.125、道路のアルベドを0.09、建物のアルベドを0.2と仮定し、大阪市域の平均的なアルベドを以下の式より求めた。
ρr=0.125×0.005+0.09×0.174+0.2×0.776=0.175
高反射率塗料の日射反射率は約0.85であるので、これを全ての建物外皮に塗布した場合の都市の平均的なアルベドを求めると、約0.68となる。本報では20[%]の建物外皮に高反射率塗料を塗布した状況に相当する。ρr=0.2の場合と、35[%]の建物外皮に塗布した状況に相当する。ρr=0.3の場合を検討した。

  1. [参考文献]
  2. 1) 大森孝修・近藤靖史・長澤康弘:高反射率塗料の遮断性能に関する研究その1、その2(日本建築学会大会学術講演梗概集 1997.9 pp183〜pp186)
  3. 2) 大島章義・近藤靖史・速水圭介:高反射率塗料による日射遮蔽効果の検討ー自動販売機および建物に適用した場合の省エネルギー効果(空気調和衛生工学学術講演会講演論文集 1998.9 pp1509〜pp1512)
  4. 3)ASHRAE Technical Data Bulletin Vol.14, 1998.1 “Energy Savings of Reflective Roofs”
  5. 4) 松尾:HASP/ACLD/8501 解説 日本建築設備士協会(1985.12)
  6. 5) 山村真司・松縄堅・近藤靖史:一次元熱収支モデルと3次元k-εモデルによる都市気温の検討ー緑地率・人口排熱と都市気温の関連について(空気調和衛生工学学術講演会講演論文集 1998.10 pp309〜pp312)
  7. 6) 森山正和・竹林英樹・宮崎ひろ志:一次元熱収支モデルによる夏季の都市気温シュミレーションにおける蒸発効率と人工排熱成分の推定に関する一手法(日本建築学会計画系論文集第519号、1999.5 pp85〜pp87)
  8. 7) 森山正和・松本衛:一次元熱収支モデルによる都市気候の推定に関する研究(その2)(日本建築学会大会学術講演梗概集 昭和61年)
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武蔵工業大学・近藤研究室 (空気調和・衛生工学会学術講演会発表用論文・1999年)
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