6.黒色高反射率塗料による住宅屋根の日射反射性能の向上

Study of Reduction of Solar Heat Gain by High Reflective Paint

  • 正会員 ◯ 大南 尚也 *1、OMINAMI Naoya
  • 正会員 近藤 靖史 *2、KONDO Yasushi
  • 同 長澤 康弘 *3、NAGASAWA Yasuhiro

キーワード:高反射率塗料 日射反射性能 実測

1 研究目的

少ない消費エネルギーで室内温熱環境を快適に保つためには建物外皮の日射反射率を高め、冷房負荷を減少させることが有効であると考えられる。この方法のひとつとして日射反射率の高い塗料(以降、高反射率塗料と記す。図1参照)が挙げられ、高反射率塗料を建物屋根や壁面に塗装することにより冷房時の日射熱負荷の軽減が期待できる。

既往の研究文1)では、白色の高反射率塗料について検討してきたが、日本の住宅に適用する場合、白色の外観は馴染まないと考えられる。本研究では白色の高反射塗料より性能は劣るが一般の塗料と比べて日射反射率が高い、黒色高反射率塗料(図2参照)註1) を塗装した場合について検討する。

高反射率塗料の概念図

図1 高反射率塗料の概念図

黒色高反射率塗料の分光反射率および波長別日射量

図2 黒色高反射率塗料の分光反射率(註1) および波長別日射量

2 研究方法

黒色の高反射率塗料を住宅屋根に塗装し、室内外の空気温度、壁面温度等を測定する。塗装前後の測定結果を比較することにより日射反射性能がどの程度向上するかを検討する。また、空気温度や壁面温度等の測定結果を基に、小屋裏収納庫および2階寝室のPMVを算出する。

3 実測による検討

3.1 実測概要

浦安市内の小屋裏収納庫を有する戸建住宅の2階寝室および小屋裏収納庫内を対象に測定する(測定期間:2001年8月3日〜10月5日)。
図3に測定点 註2) を、表1に測定項目および測定方法を示す。

測定点(2階平面図)

図3 測定点(2階平面図)註2)

測定項目および測定方法

表1 測定項目および測定方法

3.2 実測結果および考察

塗装前後の比較の際、日射量等の条件が比較的近い8月26日(塗装前)と9月12日(塗装後)について比較する。比較に用いた日の外界条件を表2に示す。

    外界条件

    表2 外界条件


    屋根表面温度、日射量などの平均値(12:00〜15:00)

    表3 屋根表面温度、日射量などの平均値(12:00〜15:00)

  1. (1) 屋根表面温度の比較
    図5に高反射率塗料を塗装する前後の屋根南側表面温度および日射量を示す。塗装する前の屋根表面の最高温度は63.1℃に達するのに対して塗装後は58.9℃となり、高反射率塗料を塗装することによって屋根表面温度の上昇は約4℃抑えられている。12〜15時の屋根表面温度の平均値(表3)から日射量が多い時間帯においてその効果が確認できる。
  2. 屋根南側表面温度および日射量

    図5 屋根南側表面温度および日射量

  3. (2) 小屋裏収納庫内温度の比較
    図6に小屋裏収納庫内温度を示す。塗装する前は空気温度、グローブ温度、天井面表面温度ともに約43℃になるのに対して、塗装後は38℃程度となり、屋根表面温度に対応して5℃程度低くなっている。
  4. 小屋根裏収納庫内温度

    図6 小屋根裏収納庫内温度 (a)8月26日(塗装前)(b)9月12日(塗装後)

  5. (3) 2階寝室内温度の比較
    図7に2階寝室内温度を示す。屋根表面温度、小屋裏収納庫内ほど顕著な差異はみられない。これは、高反射率塗料を屋根面のみに塗装しており、壁面等からの日射の影響や換気量の違いによると考えられる。註3)
  6. 2階寝室内温度

    図7 2階寝室内温度 (a)8月26日(塗装前)(b)9月12日(塗装後)

  7. (4) PMVの比較
    表4に小屋裏収納庫および2階寝室におけるPMVの算出結果を示す 註4)。収納庫内、2階寝室ともに塗装前に比べて塗装後のPMVの値は小さくなる。特に小屋裏収納庫では、高反射率塗料の塗装前に比べてPMVは1.5程度小さくなる。註4)
  8. PMV算出方法

    表4 PMV算出方法 註4)

4 結論

本研究では黒色高反射率塗料を小屋裏収納庫のある住宅の屋根に塗装し、屋根面の日射反射性能について実測により検討した。
① 高反射率塗料を住宅屋根に塗装することにより、屋根表面温度の上昇を抑えられた。
② 屋根表面温度に対応して小屋裏収納庫内温度は低くなるが、2階寝室では顕著な差異はみられなかった。また高反射率塗料を塗装することによりPMVは低くなった。


註1) 本研究では黒色の高反射率塗料ミラクールF200(長島特殊塗料(株)製、日射反射率:約25%)を使用した。また日射反射率は分光光度計 HITACHI製 U-3500 Spectrophotometerを用いて測定を行った。

註2) 図3に示す測定点は、2階および屋根表面温度に関する測定位置を示しており、小屋裏収納庫内測定点については省略した。また、日射量は南側庭中央において測定を行った。

註3) 小屋裏収納庫および2階寝室を対象に測定したが、換気量や隣室の条件等は測定日により異なり、高反射率塗料の塗装前後の比較は必ずしも同等な条件で行っていない。特に、換気量が大きい場合には高反射率塗料の効果は相対的に小さくなり、室内空気温度は外気温度に近づく。

註4) PMV算出にあたり空気温度および平均放射温度は実測値を用い、着衣量0.6clo、気流0.1m/s、相対湿度60%、代謝量1.2metとして算出した。また、表4中の小屋裏収納庫内のPMVはその適用範囲を超えているが、ここでは高反射率塗料を塗装する前後の温熱環境の比較を目的として示している。

[謝辞]
本研究を行うにあたり、当時武蔵工業大学大学生、粟生梨倫子氏(現 積水ハウス(株))に多大なる御協力を賜りました。ここに記して謝辞を表わします。

[参考文献]
文1) 近藤・長澤・入交:高反射塗料による日射熱負荷軽減とヒートアイランド現象の暖和に関する研究:空気調和・衛生工学会論文集No.78 pp15-24(2000.7)

  1. *1 武蔵工業大学大学院 大学院生 Graduate Student Musashi Institute of Technology
  2. *2 武蔵工業大学建築学科 教授 博士(工学) Prof., Dept of Arch.,Musashi Institute of Technology. Dr Eng.
  3. *3 武蔵工業大学建築学科 技術員 修士(工学) Technical Staff. Dept. of Arch., Musashi Institute of Technology, M. Eng
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